移転価格文書では、ベンチマーキング分析を通じて、自社と他社(比較対象企業)の利益率を比較し、自社の取引が独立企業間価格で行われていることを証明します。この際の比較対象企業のデータは「複数年度」もしくは「単年度」のどちらを利用することが正しいのでしょうか。
1.OECDガイドライン
OECD租税委員会のOECD移転価格ガイドライン2017年版(3.75-3.76)によると、複数年データを用いた検討が有益であることが多く、移転価格の算定に影響を与えたと思われる(又は影響を与えたはずの)事実が判明することがあるとしています。例えば、ある取引に関して納税者が申告した損失が、①類似する取引の一連の損失の一部であったのか、②前の年度における特別な経済状況によってコストが増加したものか、それとも、③ある製品がライフサイクルの終わりにあったという事実を反映しているか、といったことが判明するとしています。これにより、ベンチマーク分析のレンジ外にある損失の状況を適切に説明することが可能となります。
2.ベトナムの移転価格法令
一方で、ベトナムの移転価格法令の政令20の第6条2項dによると「納税者のある事業年度の比較検証において、独立比較対象の数値を収集する際に範囲は1事業年度に制限される」としています。
3.おわりに
実際の税務調査において、ベンチマーク分析の比較対象企業の選定(及びその数値)が争点となるケースが多く見られます。移転価格文書の作成では、OECDガイドラインを参照にするものの、強制法であるベトナム法令に従うことが必要です。上述の通り、ベトナム法令(政令20)では、比較対象企業のデータ利用は複数年度ではなく「単年度」と明記されていることから、複数年度の平均を使用したベンチマーク分析は有効性が低くなりますので、十分にご留意ください。